
Vol. 2 は「飲み比べキット」。産地 × 精製方法の 2 軸を体感するため、タイプの違う 4 種のコーヒー豆が届きます。
※ 実際の産地・銘柄は季節と入荷により変動。到着時のカードに詳細を記載。
先月あなたの手で淹れた最初の一杯、覚えていますか。今月はその先、「なぜ違う味がするのか」を、舌と頭の両方で解いていきます。
キーワードは 産地 と 精製方法。この 2 つの変数が揃うだけで、同じ「コーヒー」という飲み物が、まるで別物のように香り立ちます。
今月は 4 種類の豆が届きました。同じレシピで淹れて、味の違いを 聴いてみてください。
Vol. 1 でお伝えした ハンドドリップ基本レシピを、改めておさらいしておきましょう。今月の飲み比べも、同じレシピで淹れることで 「味の違いだけ」 を浮かび上がらせます。
粉 15g / 湯 240ml / 湯温 93℃ / 中挽き
4 投に分けて、トータル 2 分 30 秒前後で抽出を完了。
今月は 4 杯を、まったく同じレシピで淹れます。変えるのは「豆」だけ。こうすることで、産地と精製方法の違いが、はっきり舌に届きます。
もし抽出に不安が残っている場合は、Vol. 1 の実践編(STEP 01〜11)を見直してみてください。動画と一緒に、もう一度。
コーヒーノキの仲間は 100 種類以上。しかし、飲用として商業栽培されているのは、事実上 3 種のみ。市場で出会うのはほぼ アラビカとロブスタの 2 種です。

繊細・複雑・高品質。スペシャルティ表記はほぼすべてこの種。楕円形で S 字のセンターカット。ティピカ・ブルボン・ゲイシャなど品種多数。
力強い・苦い・安価。まん丸で直線のセンターカット。缶・インスタント・エスプレッソブレンドに多用。低地で育ち栽培コストが低い。
すべての品種の祖。ティピカは繊細な甘み、ブルボンは厚みとボディ。中南米のスペシャルティは多くがここから派生。
ジャスミン × ベルガモット × 桃。エチオピア西部 Gesha 地区原産で、2004 年パナマ Hacienda La Esmeralda の出品が世界に衝撃を与えた。2024 年 Lamastus 私設オークションで 1kg 約 13,500 米ドルの高値も。
World Coffee Research などが開発する病気耐性 × 風味品質両立の新世代。気候変動への回答として数十品種が実用化段階。
リベリカ種は西アフリカ・フィリピンの一部でのみ栽培。世界流通の 1% 以下で、見かけたら超レア。薬草のような独特の香りが愛好家を惹きつける隠れた存在。
私たちが「コーヒー豆」と呼んでいるものは、実はコーヒーノキに実る果実の種です。赤く熟した果実はさくらんぼに似ていることから、業界ではコーヒーチェリーと呼ばれます。

チェリーは玉ねぎのような多層構造。外側から順に、
この後登場する 4 つの精製方法(Washed / Natural / Honey / Anaerobic)は、ミューシレージ(粘液質)をどう扱うかの違いそのもの。
この層が、コーヒーの味わいのもう一つの 「発酵由来の香味」 をつくります。
チェリー 1 粒には通常種子が 2 つ入っています。ごく稀に 1 つしか入らない実があり、その 1 粒は「ピーベリー」と呼ばれます。丸くて甘みが凝縮している希少な豆で、全体の 3〜5% ほど。

コーヒーの木が育つのは、赤道を中心に北緯 25°〜南緯 25°の 「コーヒーベルト」 と呼ばれる限られた地帯だけ。世界のコーヒーの 95% 以上が、この帯状のエリアから届いています。
良質なアラビカに必要な条件は、おおよそ 3 つ。
気温 15〜24℃/朝夕の寒暖差がはっきりある
標高 1,200〜2,200m/冷涼な高地
降雨量 1,500〜2,500mm/乾季と雨季が分かれる
花・柑橘・ベリー・紅茶。コーヒー発祥の地エチオピアは原種の宝庫。ケニアは AA 等級で世界最高峰の酸味と複雑さ。
ナッツ・チョコ・バランス。毎日飲めるクリーンさ。ブラジルは世界最大の生産国、コロンビア・グアテマラは標高ある高品質産地。
スパイス・アーシー・厚み。マンデリンの名で知られるスマトラ式の独特な精製、PNG の繊細さ、ベトナムはロブスタ最大の生産国。
チェリーから種を取り出す「精製」は、コーヒーの味わいを左右する最大の工程のひとつ。水洗い、日干し、粘液質を残すか、密閉タンクに入れるか。各方法には、生まれた時代と場所の物語があります。
湿度の高い土地で安定生産するため発明。発酵槽で粘液質を溶かし、水で洗い流す。クリアな酸味と透明感。
エチオピア発祥、最古の方法。チェリーごと天日干し。果肉の甘みとベリー・完熟フルーツの香味が豆に移る。
コスタリカ・エルサルバドルが普及。外皮を剥いだ後、粘液質をあえて残して乾燥。White / Yellow / Red / Black の 4 段階で風味が変化。
サシャ・セスティックが 2015 年 WBC で優勝し、ワイン醸造由来の Carbonic Maceration を持ち込んだのが起点。密閉タンクで酸素を絶って発酵。トロピカル・ワイン・シナモンなど衝撃的な香味。第 4 の精製として 2010 年代後半から爆発的に普及。
4 つの方法すべてが、チェリー内の粘液質(ミューシレージ)をどう扱うかで性格を分けている。洗い流す/残す/部分的に残す/酸素を絶って発酵させる ── それだけで、同じ豆がまったく別の味になる。

水で粘液質をすべて洗い流す方法。17 世紀、オランダ領東インド(インドネシア)で高温多湿の土地でも安定して生産するために考案されました。
① チェリー収穫 → ② 外皮と果肉を機械で除去 → ③ 発酵槽に 12〜36 時間浸け、粘液質を分解 → ④ 大量の水で洗い流す → ⑤ パーチメントのまま乾燥 → ⑥ 脱殻
粘液質を完全に除去するので豆本来の個性(品種・標高・土壌)がストレートに出る。現代スペシャルティの 「基準点」。
水資源が豊富な地域で普及。世界のスペシャルティの 60〜70% がこの精製。ケニア式(ダブルウォッシュド)は発酵を 2 回繰り返す。
1kg のコーヒー生産に 約 40L の水を使う。近年は水の再循環システムや乳酸発酵などサステナブルな改良が進んでいる。

チェリーを 収穫したまま天日干しし、果肉ごと乾燥させる最古の精製。エチオピアの伝統方法で、機械も水も使わず、太陽と風だけで完成します。
① チェリー収穫 → ② アフリカンベッド(高床式乾燥棚)に広げて 3〜5 週間天日干し → ③ 毎日手作業で撹拌 → ④ 糖度を果肉から豆に移す → ⑤ 脱殻
果肉の糖と酵素が豆に染み込み、発酵由来の甘みと厚み。ストロベリー・ブルーベリー・トロピカル・赤ワインなど、華やかで記憶に残る香味。
雨季が短く乾季が長い産地で成立。エチオピアのイルガチェフェ G1 は世界が憧れる Natural の代表。ブラジル・パナマのナチュラルも近年高評価。
天候頼みなので年によって品質にブレが出る。カビや過発酵のリスクも高く、精製士の腕が問われる。成功した年の Natural は、その年の 「顔」 になる。

2000 年代にコスタリカ/エルサルバドルを中心に確立。Washed と Natural の中間で、外皮を剥いだ後、粘液質(ミューシレージ)をあえて残して乾燥させます。
ベタついた粘液質がハチミツのように見えることから 「Honey」。糖分のせいではありません。
White Honey(粘液 0〜25%)|Washed 寄りクリーン
Yellow Honey(25〜50%)|バランス
Red Honey(50〜75%)|甘み&ボディ厚
Black Honey(75〜100%)|Natural 寄りフルーティ
Washed のクリーンさに、Natural の甘みとボディが加わる。ハチミツ・メープル・キャラメルのような、落ち着いた甘さが特徴。
コスタリカが 2000 年代後半に本格化。いまや中米のシグネチャー。生産者ごとに Honey の割合が選べるのも個性。

2015 年、サシャ・セスティックがワールドバリスタチャンピオンシップで優勝し、ワイン由来の Carbonic Maceration(炭酸浸漬)をコーヒーに持ち込んで世界に衝撃を与えました。密閉タンクで酸素を絶って発酵させることで、従来の精製にない香味が引き出されます。
① チェリー or 果肉除去後の豆を 密閉ステンレスタンクに投入 → ② CO₂ を注入し酸素を排除 → ③ 温度・pH・時間を精密制御しながら 48〜120 時間発酵 → ④ 洗浄 → ⑤ 乾燥
パッションフルーツ、マンゴー、赤ワイン、ラム酒、シナモン…従来の精製では出にくい 極端に個性的な香味。好き嫌いははっきり分かれる。
設備投資が必要なため実験志向の小規模農園から普及。2010 年代後半から爆発的に広がり、いまではスペシャルティの 「攻め」 の代名詞に。
最近は Thermal Shock(加熱冷却ショック)、Co-fermentation(他の果実と混ぜて発酵)など派生が続々。コーヒーのフロンティアは、いま精製工程にある。
ここまで、豆のものがたり(品種・チェリー・産地・精製)を巡りました。次は、届いた 4 種の豆を実際に淹れて、舌で違いを体感します。
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